2005年に発表された、小説家・城平海による、描き下ろし小説単行本・第2弾『アンナ・カハルナ』が、加筆修正を施し待望の電子書籍化!

数多くのゲイ小説作品を発表し続ける小説家・城平海による本作は、旬を過ぎたゲイの出張ホストが、東京から山村へと移り住み、さまざまな絆を紡ぎながら、新たな人生を歩み始める姿を描いた物語です。発売当時の思い出や制作時の裏話に触れつつ、劇中でも触れられているゲイの田舎暮らしや親の介護といった、リアルな問題についてもお話をうかがいました。

─ 前単行本『Four Seasons』に続いての電子書籍化になりますが、こちらの紙書籍版の発売は2005年でした。2022年の今、読み返して感じるところはありますか?

城平 これは『Four Seasons』の時にも言ったのですが、世の中ってすごく変わったように見えても根っこの部分は同じなんだな、と感じました。ケータイがスマホになったり、LGBTQという概念が広まったりという変化はあるものの、本作で描いた人と人との関係性は微塵も古ぼけていないと思います。
 それとは別に、私自身の文章の拙さには頭を抱えました。現在でも威張れるような文章力ではないのですけど「こんな文章で本を出したのか!」と、改めて驚き恥じ入りました。そのあたりを根こそぎ修正したので、多少は読みやすくなっていると思います。

─ そんなことないですよ!(笑)ただ、今の時代と照らし合わせたときも、「この言い方って今だと違うよね」的なところは、確認や相談したりしましたね。昔の作品を読み返すと、どうしても出てくるところではありますが…。

城平 たしかに言い回しや言葉の選び方が変わった部分はありますね。当時は何ら問題に思わなかった表現が、17年が経った今の時代的にはそぐわないのかも、みたいな。

─ それでは、本作を制作された際のお話をうかがいたいのですが、どんな着想やきっかけだったのでしょうか?

城平 この小説は雑誌『G-men』に掲載された、アダルト小説『神楽舞』(Kindleにて好評配信中)が下敷きなのですが、『神楽舞』を書いたきっかけは、友人が親の介護のために実家に帰ったことです。田舎に戻って大丈夫かな、ストレスを抱えてないかな、と彼の新生活を案じるうちにストーリーができました。エロ小説ですけどね。(笑)

─ ゲイ的な視点で見ますと、主人公・哲也と、かつての憧れの男・健二郎、村の青年・耕太が、主な男性キャラになります。これらのキャラ造形で何か意識されていたことはありますか?

城平 三者三様、それぞれ違う人物像にすることを心がけました。年齢や職業・立場が違うことで、それぞれ見える景色も違ってくると思うので。また読者の方も、3人の誰かに自分を重ねたり、あるいは応援、つまり「推し」ですね、しやすいのではという計算もあります。余談ですが、先ほど話に出た友人は、現実には耕太のような見た目の奴です(笑)。

─ 今作では女性キャラもすごく印象深いと思います。哲也の雇い主・麻里奈、健二郎の幼馴染・洋子、耕太の嫁・美菜、その他にも村の女性や、健二郎の親族など…。これらのキャラ造形は何かベースがあったのでしょうか?

城平 『神楽舞』では女性は1人もいませんでしたが、単行本小説として、より多くの読者に共感してもらえるように、彼女たちを登場させました。麻里奈のモデルは、新宿二丁目で何度か会って一緒に飲んだ方です。バリバリのやり手の強烈キャラで、周りの空気を読まないのに、不思議な可愛らしさがある方です。洋子は全くの創作ですね。ああいう雰囲気を持つ女性って、会ったことありません。
 あとは過去に関わりがあった、アクの強めな女性たちをデフォルメしてちりばめました。みんな物語の中でいい仕事をしてますよね。

─ 2005年の東京が舞台だった『Four Seasons』と大きく異なり、今作では農村が舞台となっています。その描写のために、実際に取材をされたりなどは?

城平 「神楽舞」の時は完全にでっち上げ……もとい、想像だけで書いたのですが、単行本化にあたっては、安中榛名へ取材に行きました。舞台に選んだのは、その後高崎市に編入された倉渕村という場所です。物語で描いた東京からの距離感がちょうどいいこと、静かな農村であること、物語のモデルにした実在の方々と接点がないこと、という条件にぴったりだったんです。
 取材の時は、群馬在住の方が運転してくれたのですが、その方が語る北関東ゲイライフが面白くて、参考になりました。ゲイの出会いには車が必須で、出会い系でリアルする時は、高速に乗って100キロ200キロくらいの移動は当たり前だよ、など東京近辺とは全然違う感覚に驚きました。

─ わかります! 僕も茨城に住んでた20代の頃は、車飛ばして隣県の男の家や、夜のハッテン公園に遊びに行ったりしてました。

城平 ろんさんの場合は茨城といっても首都圏内じゃないですか。ああなるほど、電車で東京近辺を荒らし回って、その一方で車に乗って北関東から東北も、というわけですね。すごい行動力!

─ 当時は若かったんですよ! 公共の交通機関が便利な都内は、男漁りにも便利なんですが、地元だと移動はもちろん、出会い自体も難しくて(笑)。本作では、健二郎が哲也に出張を依頼していましたが、そういった田舎ならではのゲイ事情はよくわかります。

城平 Kindle化にあたって先日再訪してみましたが、安中榛名駅前にあったコンビニが閉鎖されて、半径5キロ以内に生活利便施設が一切なくなっていました。それでも駅前分譲地は完売していまして、ものすごーーーく美しい街ができあがっています。

─ その時、撮影したお写真をここで掲載させていただいています。やはり、実際の現地でも時は流れていたということですね。

城平 17年経つと、街路樹や民家の樹木が立派になって重厚感が出ますね。圧倒的な街並みでした。この小説には駅前広場しか出てきませんけど。

─ 本作では、親の介護の描写も印象的です。これもゲイの田舎暮らしと同様に、ゲイの息子による親の介護、というのも現実に問題として抱えている人は少なくないと思います。作者として、これらの描写に込めた想いなどは?

城平 作品発表後しばらくして、私自身の両親がほぼ同時に要介護になりまして、自分で描いた世界に私自身が呑み込まれてしまいました。小説の中とは違って、介護施設や病院に最大限お世話になりましたが、それでも現実は想像より過酷でしたね。甘かったです。今回のKindle版では深い描写を避けつつも、細かい修正を加えて介護現場の空気を盛り込みました。

─ 僕も40代後半になって、親も70代に入りました。若い頃は気にしていなかったのですが、いつ介護が必要になってもおかしくはないだろうなと感じています。ただ、何をどうしていいかわからない、というのが正直なところでして…。

城平 こればっかりは当事者になってみないとわかりませんよ。前もって勉強しようにも、そもそもどんな要介護になるか、たとえば足腰が立たなくなるか、内臓が衰弱するか、はたまた認知に問題が起きるか、それがどの程度重いのか、まさに人それぞれですから。 いざという時に相談できる、介護経験者の友人知人を持っておくくらいでいいと思いますよ。

─ 実際にそうなってみないと、見えないものもあると。確かに、色々な方が体験した、介護のお話を聞けたらなぁと思いますね。

城平 これから介護する側になる皆さんに、ひとつ伝えたいのは兄弟姉妹との関係です。大人になると兄弟姉妹でもそれぞれの世界や家庭ができ、深い話はしなくなるものです。ところが親の介護に直面すると、生命観、家族観、金銭感覚などあらゆる価値観を、根こそぎ晒し合うことになります。
 親御さんが与えてくれたいい機会だと捉えて、とことん腹を割って話し合ってみてください。将来の関係にプラスになるはずです。それは必ずしも、関係が良くなることとは限りません。この作品に出てくる兄姉弟のように、価値観が相容れない同士が互いに離れて、人生の無駄遣いを止めることもあると思います。

─ そういった現実的な問題にも触れつつ、神楽舞が男と男を結びつけるという物語は、古来の伝統に基づく神秘さもあり、ロマンチックなラブストーリーなニュアンスもあるのではと思います。厳しいリアルとスイートなロマンスのバランスが、読んでいて心地よいエンターテイメントに昇華されていると感じました。他作品にて、エグめなエロ描写を描いている城平先生とは別人格なのでは、と思うくらいです。短編と長編の違いもあるかと思いますが、入れるスイッチが違うみたいな感覚なのでしょうか?

城平 私としては、この手の小説も濃厚なエロ小説も、まったく同じ地平で書いていますよ。キーワードは「『めでたしめでたし』で終わる物語」です。途中に紆余曲折があっても、過酷な経過を辿ろうとも、最後は主人公が納得して幸せになるように書いています。幸せの形は様々ですけどね(ニヤリ)。

─ もしも、タチ兄貴がウケの性奴隷に堕とされても、その当人にとっては幸せなんじゃないかと(笑)。

城平 そうそう(笑)。私の作品でこの夏にKindle化予定の『ポチ』(過去に電子書籍サイトで配信した時のタイトルは『奴隷犬哲也』)の主人公がまさにそれです。年下のご主人様にプライドも立場もズタボロにされて、それでも嬉々として服従する話なのですけどね。ちなみに年下鬼畜Sのモデルはろんさんです(笑)。

─ やめてください! あんなハードプレイ、したことないです! えぇと、城平先生は本作以外にも、男性同士の性描写が激しく豊かに描かれた、オカズに最適な作品を数多く執筆なさっていますので、他作品もぜひお読みください、ということで(笑)。

城平 まあ冗談はさておき、読者の方はお金と時間をかけて読んでくださるのですから、読後に気分が落ち込むような話は書かないようにしています。私自身そういう話が嫌いですし、そんな作品が許される偉い作家先生でもありませんので。

─ おっしゃるとおり、本作の最後で、哲也、健二郎、耕太たちは、それぞれの未来への希望が感じられました。あれから時は流れて、今の彼らの姿を思い浮かべるとしたら?

城平 それぞれ大人になり、ほど良い距離感で付き合いが続いていると想像します。具体的に語ってしまうとこれから読む方にネタバレになってしまうので避けますが、成熟した人間同士として関係が深まっているのではないかな、と。

─ それでは、最後にひとことお願い致します。

城平 単行本の第2弾だったこの「アンナ・カハルナ」、喜怒哀楽がてんこ盛りの人間くさい物語です。読んだ後、少しだけ他人が愛おしく思える、そんな作品でもあると思います。先に電子化した『Four Seasons』同様、今回も元雑誌『G-men』編集部のろん様に尻を叩かれ……じゃなかった、お力添えをいただいてお届けします。  ぜひ読んでみてください。よろしくお願いします。

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Profile

城平 海(きひら かい)

1990年代後半からゲイ雑誌『G-men』にアダルト・エンターテインメント小説を寄稿。同誌をはじめ『復刊薔薇族』『SUPER SM-Z』等、複数のゲイ雑誌および小説配信サイトにて、ゲイ向けアダルト小説やエッセイ、レポート記事を発表。2005年よりゲイ男性を含む人間模様を描いた非アダルト小説単行本『Four Seasons』などを発表(現在までに4作品)。現在は過去の小説作品(含、別名義作品)や未発表作品、およびオリジナル新作をKindleにて順次配信中。

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